エッセイ

分水嶺の北側

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C-9 市川 熹

七月の車山付近は山一面にニッコウキスゲが咲き乱れ、素晴らしい景観を作っているのは有名ですが、八月のマツムシソウもまた見事です。マツムシソウは紫色の花で葉の緑に沈むため、ニッコウキスゲのような派手さは無いように思われるかもしれませんが、目線を花の高さに下げて斜面をみると、一瞬に斜面が紫色の世界に見事に変わります。

車山には「オカンばば」という伝承があります。柏原の若者が車山に薪を取りに行ったときに、「ばば」に手紙を届ける使いを頼まれて目をつぶっていると、八ヶ岳の頂上と往復したというような話です。「オカン」は蓼科の麓の湯川村の天狗にさらわれた娘だという別伝もあります。

車山ではハングライダーの講習会などもしていますね。さらに進むとコロポックルというところに来ます。その名前の謂われは判りませんが、アイヌ語でしょうか。その先に行くとグライダーで有名な霧ヶ峰や、「油氷」という良質の氷が張り、かつてスケート練習場としてオリンピックの選手が合宿した「蓼の海」等があります。

しかし、コロポックルからは高原の間道を、車山湿原を経て、八島ヶ原湿原に向かって散策するのも気持ちの良いコースです(夏は木陰が少なく、ちょっと厳しいです)。

途中に旧御射山(もとみさやま)遺跡があります。三角形の盆地状の場所で、周りに数段の観客席の石組が囲んでおり、鎌倉時代に流鏑馬などを行った競技場跡と言われています。草で覆われ、良く見ないと判りにくく、オリンピックの遺跡のようには大規模でも派手ででもありませんが。観覧席の西側が甲州桟敷、南側が信濃侍桟敷、北東側がメインで勅使や鎌倉御家人などの桟敷となっていたようで、7月下旬に年に一度実施したそうです。

八島ヶ池は浮島で有名な湿原ですね(国の天然記念物)。この先は鷲ヶ峰を超えて和田峠とその先の扉峠に出ます。扉峠からは松本に降りるルートがあります。

ここにも伝承があります。

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