エッセイ

分水嶺の北側

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C-9 市川 熹

昔、霧ヶ峰東俣(八島ヶ池の西、観音沢、諏訪大社下社の御柱の育成地)の谷間に絶世の美女「カキツバタ」が、大笹の谷(エコーバレー付近)にたくましく端正な容貌の若者「山彦」がいました。二人は好意を寄せ合っていました。ある日二人は、旧御射山(もとみさやま)の湿原でぱったりと出会いました。お互いをほめあいましたが、自分の姿を見たことがありませんでした。

そこで池に自分の姿を映してみようということになりまた。先ず山彦が池に映してみましたが、風で漣が立ち、鬼のような形相が映りすっかり悲観してしまいまた。次にカキツバタが自分を映したところ、その美しさに見入ってしまい、たたずんでいるうちに根が生えて「かきつばた」になってしまいました。山彦は悲観して大笹の谷に身を投げ、行方しらずになってしまいました。

今でも八島湿原に「カキツバタ」が咲き、山彦谷(エコーバレー上部)の殿城山側(分水嶺の蝶々深山の東)に山彦の声が残っていて、呼びかけると山彦の声を聞くことが出来ます。山彦の顔を映した池は「鬼の泉水」という名前で残っているということです。

和田峠付近には、日本有数の黒曜石の産地である「鷹山」の「星糞(ほしくそ)峠」があり、縄文時代に全国で用いられた黒曜石の産地として有名です。世界最古の鉱山とも言われているようです。新和田峠トンネル有料道路と大門街道(国道152号線)をつなぐ県道155線の途中にあります。この遺跡は平成13年に国指定遺跡となっています。黒曜石は鏃や刃物に加工されました。鷹山遺跡の中には明治大学の「黒曜石研究センター」があります。長門町が管理している資料館は「原始・古代ロマン体験館」は、遺跡よりもだいぶ北の大門街道沿いにあり、車で20分ほど遺跡は離れているそうですが、私は未だ行ったことはありません。また、有料道路から県道155線への入口付近は男女倉谷と呼ばれ、後期旧石器時代の遺跡といわれ、石器が20ヶ所以上から発見されているそうです。

なお私は、未だ別荘を建てる前の、ずいぶんと昔のことですが、家内とたまたま美ヶ原に向けて和田峠を通りかかり、有料道路の料金所の方に教えられて、料金所の裏の和田峠のトンネル工事の土の中から黒曜石を拾いました。現在でも私はそれを別荘に置いています。

さらに進むと美ヶ原に出ます。白樺湖から美ヶ原へもバス路線があったのですが、赤字で廃止になってしまったのが、車を使わない私には大変残念です。美ヶ原には彫刻美術館があると思いますが、最近はバスが無くなり、行けていません。

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